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リレーエッセイ 第4回 武藤芳治さん



トマトと砂糖の北海道
      

 みなさん、こんにちは。 かなり間の空いてしまった、宿題の「北海道ゆかりの会リレー・エッセイ」です。もうしわけありません。なにせ、生業が物書きなもんですから、下手なものは書けないなと思っているうちに半年以上も(え、1年?)経過してしまいました。NYのみなさまには、わがゆかりの会の誇る名編集者、釧路出身の三浦さんの手になる「週刊NY生活」でときどき「視座点描」なんぞという難しげな(怪しげな)時評ものをお見せしておりますが、今回はもっと柔らかい、一部の方はすでに期待なさっているのではないかと思われる、食い物ネタで参りたいと思います。

 さて、先日のことです。わたくし、何気なく他人のうちのパーティーで山盛りに飾ってあったトマトを齧りたくなりまして、1個を手に取ってカプリとやりましたら、あまり味が濃くなかったものですから、近くにあったコーヒー用の砂糖瓶から砂糖を振りかけまして、そんでその砂糖載せトマトにふたたびかぶりついたわけです。そうしたらそれを近くでたまたま目撃していた女性が、ギョッとした顔でこちらを見つめて固まっておるではありませんか。それで、あ、そうだった、トマトに砂糖というのは北海道の食べ方で、一般にはあまり普通ではないと受け止められるんだった、と思い出したのであります。はたしてその女性、東京出身者ですが、「なに、それ!」と変な声を出してわたくしの食べ方を責めるのでありました。まあまあ、どーどー。


 トマトに限りません。北海道では、どうしてこうも砂糖をさまざま奇天烈に(と他地方出身者からは見えるやり方で))使って食べ物を食べるのでしょうか。 だれでも知っている納豆に砂糖と醤油、というのを筆頭に、赤飯には小豆じゃなくて甘納豆でしたよね。あれ、けっこう苦手でした、わたし。夏みかんが酸っぱかった時代に砂糖をかけてたのはいいにしても、出始めのころのグレープフルーツにもむかしは砂糖をかけてたような。なんか、甘くないものに対する恐怖が強迫観念化したかのような使い方でした(そういや、高校のころ初めて食べたピザ・パイ=当時はそう呼んでいた=が、パイという名前なのに甘くないのには何じゃこれはと思ったものです=関係ない)。マクワウリやプリンスメロンも昔はそんなに甘くなかったから砂糖でしたね。おお、練乳が切れてたときはイチゴにも砂糖をかけていた記憶が。スイカは塩ですが(ところがこれは欧米人には驚かれます)、ふつうのメロンもいまの夕張メロンのまえは甘くなくて砂糖をかけて皮がペラペラになるまでスプーンで削り取って食べたっけ(というのは単に貧乏だったからか、あはは)。


 いや、貧乏だけが理由ともいえません。缶詰のコーンを砂糖と醤油とバターで炒めて食べたのはうちだけかしら? ゆでた馬鈴薯に、バターと砂糖というのもありですよね。あ、そうそう、我が家では元旦にお椀にぽとりと梅干しを落とし、そこにかなりの量の砂糖をぶっかけて熱い緑茶を注ぎ、梅干しを崩しながらその甘酸っぱいお茶をすするというのが無病息災を願う“儀式”になっているのですが、これはうちだけでしょうか? ちなみにビールに砂糖を入れて飲もうというのはうちの母だけですが。 もっとあります。茶碗蒸しに栗の甘露煮、あれ、北海道では定番ですよね。おかしくもなんともない。しかし、一般にはそうではないのです。おかしいのです。入れるのは甘くない銀杏や百合根。だいたい北海道って茶碗蒸し自体が甘いですが、しかし茶碗蒸しはふつう甘くあってはいけないのです。一般的な和食ではだしと塩味なわけ。これも東京で懐石を喰うまで知りませんでした。何、この茶碗蒸し! まずい! と思ったものです。ああ、なんとお子ちゃま舌だったのでしょう。卵焼きだって北海道のは甘い。あれは味醂とか出汁とかではなくてただ砂糖甘いのです。カボチャだって甘い上にさらに砂糖を入れて煮るんだもの。さらにはポテトサラダにも砂糖を入れる人もいるらしい(隠し味以上に?)。うちの母は甘いリンゴを入れてましたけど。 それからそれから、私も知らなかったんですけど、日本語でアメリカンドッグとかフレンチドッグとかいうやつありますよね。英語では corn dog ですけど、ソーセージを串刺しにして、コーンミールの生地にディップして油で揚げるやつです。あれ、道東・釧路あたりに行くとケチャップとかマスタードじゃなくて砂糖をまぶして食べるのが一般的なんですって。へええ、砂糖ドーナツですか? 南部煎餅の胡麻のやつに蜂蜜を塗るとおいしかったけど、そりゃ関係ないか。


 ね、砂糖って、やっぱり北海道の食文化のかなり重要な部分を担っているでしょう? この「砂糖文化」、ところでどこから来てるんでしょうね。ちなみにトマトに砂糖というのは中国や韓国でもそうなんですって。韓国人の友人は、それは普通だよ、と,気持ち悪がる東京人を尻目に涼しい顔でいってました。ということは大陸の食べ方が伝わったか? ジンギスカンもそうだし。大陸も北海道も寒いところだかでしょうかね。糖分を取ってエネルギーを補給する。東北でも納豆に砂糖というのはありとかいうし。 それともたんに甘いものっておいしいし、砂糖って、北海道は明治時代から甜菜(砂糖大根、sugar beet)の唯一の産地で、ほら、ビーツの一種ですよ。んでもって、日本の国内産の砂糖のなんと80%は、この北海道のテン菜から作られているんですって。北海道の砂糖文化は、生産量からいっても当然なのかもしれません。


 わたしはかねてから北海道に料理人は育たないと嘆いております。 海のもの、陸のもの、素材がよいし豊富なもんですから、なんといってもそのまま出すのが一番おいしい。すると調理とか料理とか、そういう技術は要らないのですね。だから北海道に帰ると、寿司屋でもフレンチでも、工夫がないんだなあ。そのまんま。で、うまいんだからしょうがない。それでもやっと最近、きちんとした技術を積んだイタリアンやフレンチの若手シェフが出てきたようですが。 で、料理人が育たないもうひとつの元凶はじつはこの砂糖文化のせいだったんではないかと気づいた次第。砂糖をかけるとなんでもおいしい。ふつうのそこらのトマトが、あんなに小さいのに1個300円もするフルーツトマトに早変わりなんですからね。だいたい、どんな料理でも隠し味に砂糖を入れるとかんたんにレベルが1段階上がるもんです(ズルい)。安いお米も、炊くときに砂糖をちょこっと入れると味が変わります。餃子やハンバーグのタネだってそうです。いわんや、味噌汁をや。


 ちなみに、つねに例外なく料理が絶品と評判の我が家のパーティーで、いままでゆいいつたいへんな不興を買った例外が、デザートとしてわたしが発明した意欲作「トマトの砂糖姿煮」でした。とほほ。 トマトに砂糖、そんなに嫌がらなくてもいいのにねえ。 知ってます? キュウリにハチミツをかけるとメロンの味がするって。もう1つ、プリンに醤油をかけるとウニの味になる。それらよりはいいでしょう。ま、わたしは試したことがありませんが。

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